日曜日, 11月 21, 2004

通勤特急ゴッゴル(5)

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数日前から続いている自分を取り巻く不審な動きは、今後も続くのだろうか。
見知らぬ相手から受け取った封筒を持っている以上は、恐らく監視を受け続けるだろう。早く受け渡してすっきりしたい。
日曜日の朝とくにすることもなく、デスクの上に無造作に置いた封筒に目をやった。あまり関心もなかったが、こうしてすることもないと何故か気になって仕方がない。
勝手に開ければ、開けたことが分かり、どんな対応が待っているのか不安があるが、それよりも中身を確かめたいという気持ちが強くなった。
用心深く糊付けをしたところを剥がし始めると、元通りに分からなく封ができそうだった。
ようやく完全に開け終わり、封筒の中身を取り出すとソフトケースに入ったコンパクトフラッシュカードだった。
自宅のデスクトップパソコンにそれを挿入してみると、読み込みをはじめたが、パスワードを要求する画面になって先に進めなくなってしまった。
しかたなく、カードのデータをそっくりハードディスクにコピーをして、再び封筒に戻した。
結局何も分からなかったので、気晴らしに自転車で近くをサイクリングすることにした。
新潟では雹にあったが、今日は晴天で気温もかなり高かった。デジカメで季節の変化を撮して、「秋味ぶろぐ」に投稿するのが最近の休日の日課になっている。
近くを流れる瑞穂川沿いに数キロ続くオフロードを、ふらつきながらしばらく走っていると、土手の下の川の際まで下りられる場所が何カ所かあり、それぞれビーチパラソルなどが差してあって、その下に判で押したように釣り人の姿があった。何人目かの釣り人の姿を見たときに、その釣り人が一瞬振り返ったが、目にはサングラスをかけていて携帯で誰かと話しているようだった。日がな一日釣りをする人間がわざわざ携帯で誰かと話しているという姿は奇異に感じた。
小一時間サイクリングをしてようやく自宅が見えるところまで帰ってきたが、自宅の庭から立ち去る人影が見えた様な気がした。
家に戻り部屋の中を一通り見回してみたが特に変わったこともない。
それに例の封筒すらそのまま置いてあり、人が家に上がって物色した形跡はなかった。
それから数日間は全く何事もなかったように日々が過ぎていった。
動きがあったのは6日目の晩のことだった。

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月曜日, 11月 15, 2004

通勤特急ゴッゴル(4)

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誰かに見張られているような感覚が残ったまま冷たい布団に入った。
暫くは寝付かれなかったが、前日の疲れもあっていつの間にか眠りについた。
しかし携帯電話にセットしたアラームを解除していなかったため5時に目を覚ますことになった。まだ暗いが、目を凝らすと少し空が白んできているのが判る。
出張の仕事も終わっており、昨晩のメールで指定された列車に間に合うための出発時間にも間があるが、誰かに見張られているなら、それの裏を欠いてみるのも良いだろうと考え始め、早めの列車に乗ることにした。
温泉には入らずに、部屋のシャワーを浴びて、すぐに背広に着替え始めた。
そして帳場に寄って朝食を断りすぐに出かけることにした。
旅館の玄関の応接の前にあるテレビでは、早朝のニュースとして『イラク泥沼化、自衛隊死者八人に』と報じていたが、既に何度も報じられてきた同様の報道に既に無感覚になっていたので、特に反応もせずに駅に向かった。
6時27分に乗車したMAXとき300号は定刻通り8時12分に東京に着いた。今日は特に尾行されているという実感はなかった。
八重洲口地下の喫茶店で時間まで待とうかとも思ったが、2時間以上も間があるので、果たして約束通り11時の特急に乗る必要があるのかを考えてみた。
訳の分からない封筒を預かってはいるものの、納得して預かったものでもないし、しかもそれが何なのかも判らない。
どうせ居所がどこにいても判るくらいなら、無視をして別な列車に乗っても突き止めるだろうという気がしてきて、結局11時の特急には乗らずに適当な快速電車に乗ることにした。電車が動き始めてからノートパソコンを開いてAir-Hで自分のウェブログを開いたところ、コメントとトラックバックがいくつか付いていることに気づいた。その中に一つだけ不可解なコメントがあった。コメントの内容は、デジカメで写した風景写真に付いたもので、写真とは何の関係もないもので、『預かったものを返してください。約束を守れないなら貴方の命が危険に晒されることになります。次の指示を待ちなさい。』というものだった。勝手にしろという気持ちと、なぜウェブログまで使って、しかもパソコンを開くことまで見越しているのかという不可解な気持ちとが入り交じって、いても立ってもいられなくなりそうだった。しかし途中駅でおりても仕方がないので、とにかく自分の下車駅まで我慢することにした。

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土曜日, 11月 13, 2004

通勤特急ゴッゴル(3)

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寝苦しい夜だった。
既に窓の外は明るくなっていた。時計を見ると既に7時近くなっていたので、無理してでも起きなくてはならない。
怠い体を起こし、熱いコーヒーを飲んで目をさまそうとしたが、しばらくは頭がぼーっとしたままだった。昨晩のことが現実のようでも夢のようでもあった。
人ごみでごった返す東京駅の新幹線乗り場につくと、一刻も早く指定席について体を休めたかった。新潟中越地震から1年たち、既にこの路線は定刻通りに運行している。
列車の座席から見える前方のテロップで「政府、北朝鮮に経済制裁続行、緊張高まる」というニュースが流れていた。
列車が越後湯沢を過ぎるあたりから、雨が降り始め段々列車をたたく音が大きくなってきた。雹に変わりはじめたようだ。
長岡駅にあと数キロとなったときに、携帯電話のメール着信音が鳴った。『あなたが今長岡駅付近を走っていることを知っています。長岡駅に着いたら駅の西口のタクシー乗り場の近くに立っている黒い背広の男性から封筒を受け取ってください。封を切ってはいけません。次の指示があるまで持っていてください。』というメールが届いていた。なぜ自分がいるところが判るのか。それに自分のメールアドレスをなぜ知っているのだろうか。
疑問をもったまま、指定の場所に行ったが、誰もいない。しばらくいたが誰もこないので、仕事の目的地に行くためにタクシーに乗り込もうとしたところ、後ろから肩をたたかれておもむろに大きな封筒を渡された。振り返ると黒いサングラスをかけた中年の痩せた男性だった。言葉も交わすことなく男性は立ち去った。
1年前に水害と地震の2度の被害にあった見附市での仕事の最中も、昨晩のことと先ほどのことが気になって仕方がなかった。
夕方になって仕事が一区切りついたので引き揚げることにしたが、金曜の週末でもあるので生家のある越後湯沢に宿泊することにした。今では遠縁の親戚が住む生家は狭いため近くの旅館に宿泊したが、まだスキーシーズンには早いので、宿泊客が少なかった。
10畳ほどの広い部屋で手持ちぶさたでくつろいでいると、再びメール着信音がなった。
『あなたは今日中に帰ると思っていました。どうして泊まることにしたのですか。明日11時の東京発K行きの特急に必ず乗車してください。』
ずっと誰かに見張られているようで気分が悪くなった。

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通勤特急ゴッゴル(2)

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走り始めてしばらくすると、急に睡魔が襲ってきたので、仕事をしようと開いたパソコンを早くも閉じることにした。そして全身の力が抜けて吸い込まれるように眠りに落ちていった。
・・・・・ゴトゴトゴトという大きな振動で気がつき、窓の外を見ると、どうもいつもの夜景色と違う。熟睡しているうちに、下車駅を過ぎてしまったようだ。
とにかく次の停車駅まで行くしかない。特急の次の停車駅はT駅だ。
斜め前の女性はまだ乗っている。彼女は手にしたPDAからどこかにメールを送っているようだ。なぜかそれは個人的なメールでなく、仕事上のメールのような気がした。つまりこれからの行き先に何時に着くかという連絡に、着いてからはじめる会議の資料も添付して送っているように思えた。そう思うと何故かそのことが気になり、こんな遅い時間に帰宅目的以外の何の目的で乗車しているのか確かめて見たくなった。
彼女は次の駅でも降りる様子はなかった。終点まで行くつもりのようだ。
明日は、出張で東京駅に直接9時過ぎに着けばよいから、少しくらい今晩帰宅が遅くなっても構わない。ここまで来たのだから彼女がどこに行くのか確かめてみよう。
本来の下車駅から30分ほど乗り続けてようやく終点に着いた。休日や休前日の夜は観光地へ向かう乗客が宿泊を前提に下車するのこの終点駅は、旅館やホテルのマイクロバスなどが駅前に何台も停車して活気があるが、平日の夜は遠距離通勤のサラリーマン達が下車するとすぐにひっそりと静まりかえってしまった。
一人駅前に取り残された彼女は、携帯電話でどこかに電話をかけてから、暗闇の中へ続く細い道を海岸の方向に歩き始めた。50m位距離を置きながら後に続くが、重い鞄をもった彼女の足取りは遅く、意識しないとすぐに追いついてしまいそうになる。
数分歩くと星明かりに打ち寄せる波頭がかすかに光る海岸に着いた。荷物を下ろした彼女は鞄から取り出した棒のようなものを海に向け始めた。その棒の先が示すはるか先の海の方角には小型のクルーザーが停泊しているのがようやく識別できた。
しばらくするとクルーザーからは点滅する明かりが見えた。そして黒い影がそのクルザーから海岸に立つ彼女の方に向かって動き始めた。
その影が大きくなり、彼女の近くまで来ると、彼女はスラックスのまま海に入っていき、その黒い影に吸い込まれた。
唖然とする私は、しばらくそのまま海岸の砂丘の影からその様子を見つめていた。
黒い影は再びクルーザーの方に接近し、そのまま一つになった。
クルーザーは動く様子はなかった。
しかたなく、私は駅の方に引き返すことにした。
なぜストーカーまがいの行為をしてしまったのか後悔したが、それよりも彼女がこんな時間に誰もいない終点駅の海岸に向かったのかの疑問の方が頭の中を占領していた。
(続く)

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火曜日, 11月 02, 2004

通勤特急ゴッゴル(1)

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今日も気がつくと既に7時を過ぎていた。ここ数ヶ月仕事の内容が変わった影響で、次から次へやってくる訪問者への対応とひっきりなしに掛かってくる電話の対応で、一息ついた頃にふと時計を見るといつも7時を過ぎているといった状態だ。
乱雑にちらかった机の上を片づけはじめたが、今度は端に無造作に積み上げた書類の山が気になり、分野別に分けてファイリングをすることにした。
いつもはいい加減なのだが、こういうときはその反動がでて、止まらなくなる。
ようやく人心地ついたときには、9時近くなっていた。
最寄りの駅から電車に乗るときは、一旦始発駅に戻り、席にすわって帰ることにしている。
また特に疲れたときや、更に仕事を片づけたいときには、たまに通勤特急ゴッゴルに乗ることにしている。
今日は、持ち帰り残業を片づけるため、ゴッゴルの先頭車両に乗り込んだ。
白と青とイエローで塗装された流線型のゴッゴルは、既に帰宅しようとするサラリーマンでいっぱいだった。ビールとつまみで既に赤ら顔の者、タブロイド判の夕刊を見ている者、パソコンで仕事をしている者など、様々だ。
私は、キオスクで買ったサンドイッチを食べながら、相談案件の書類を見ながら、どのような法的解決策を講ずるのが効果的か考えはじめた。
しばらく黙考した後に、大きく息を吸い込んで深呼吸をしながら、なにげなくまわりを見回してみると、斜め前にかなり以前に会ったことがあるような特徴のあるアメリカ人の女性が座っていた。
スラックス姿の髪の長い女性は、こちらの視線を感じたのか、振り返ると会釈をしてきた。
しかし誰かが思い出せない。彼女の前の座席に備えつけのポケットに入れてある封筒には、なぜか「X20」の文字が書いてあった。
(続く)

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